ある日、突然倒れて全身が痙攣している愛犬を目の当たりにしたら、ビックリしてしまいますよね?
「苦しそうだけれど、どうしたらいいのだろう」
「すぐに動物病院に連れて行くべき?」
などと不安や疑問を抱える飼い主さんも多いことでしょう。
そんなとき、てんかんについての正しい知識を持っていれば、焦らず適切な対処をすることができます。
この記事では、てんかんの原因や症状を説明した上で、てんかんを発症した愛犬に対して飼い主がするべきこと、てんかんの治療、家でのケアについて解説していきます。
目次
犬のてんかんとはどんな病気?
犬のてんかんとは、脳内の神経細胞が過剰に興奮することで発作が繰り返し起こる病気です。犬の脳は、私たち人間と同じように多くの神経細胞からなっており、その神経細胞が電気刺激により適度に興奮することで情報が伝達されます。しかしてんかんでは、神経細胞が過度に興奮することによって、脳の働きに異常を生じるのです。
老犬がてんかんを発症する原因は?
犬がてんかんを発症する原因は、大きく2種類に分けられることが一般的です。しかし、ここでは分かりやすいように以下の4つに分けて解説していきます。
・特発性てんかん(原発性てんかん、一次性てんかん)
・症候性てんかん(続発性てんかん、二次性てんかん)
・潜在性てんかん(潜因性てんかん)
・非てんかん
特発性てんかん(原発性てんかん、一次性てんかん)
特発性てんかんとは、検査をしても原因が突き止められないてんかんのこと。犬のてんかんの多くは特発性てんかんで、6カ月~6歳で発症することが多いです。また、遺伝的な関連が強いと考えられ、次のような犬種がてんかんになりやすいとされています。
・ミニチュア・ダックスフンド
・ビーグル
・キースホンド
・ゴールデン・レトリーバー
・ラブラドール・レトリーバー
・シベリアン・ハスキー
・シェットランド・シープドッグ
・プードル
・ベルジアン・シェパード・ドッグ・タービュレン
症候性てんかん(続発性てんかん、二次性てんかん)
症候性てんかんとは、脳腫瘍や水頭症などの脳の病気や外傷による脳の損傷によって発症するてんかんのこと。
あなたの愛犬がシニアになって初めててんかんを発症した場合は、症候性てんかんか後で説明する非てんかんの疑いが強いです。老犬になると免疫力が落ち病気になりやすいため、何らかの病気がてんかんを引き起こしていると考えられます。
潜在性てんかん(潜因性てんかん)
潜在性てんかんとは、症候性てんかんの疑いがあるが原因が特定できないてんかんのこと。
非てんかん
脳以外の異常によって発症するてんかんのこと。非てんかんには、次のような疾患や体の異常があります。
・腎障害
・肝障害
・糖尿病
・犬ジステンパーウイルスなどの感染
・中毒
・薬の副作用
・電解質異常
犬のてんかんの症状
犬のてんかんでは、突然気絶して全身がけいれんする場合が多いですが、他にもさまざまな症状が見られます。また、てんかん発作の前後にも特徴的な症状が見られる場合もあるので、この章では3つのケースに分けて見ていきましょう。
てんかん発作前の症状(前兆)
てんかん発作前の症状の例としては、以下のようなものがあげられます。
・一点をじっと見つめる
・落ち着きがない
・よだれ
・嘔吐
・なく
・旋回
・不安そうにする
てんかん発作の症状
てんかん発作の症状は、全般発作(大発作)と焦点発作(小発作)の大きく2つに分けられます。全般性発作は脳全体が、焦点発作は脳の一部が異常に興奮しているときに起こるのが特徴です。また、焦点発作は全般発作に移行することがあります。
<全般発作の症状>
・意識を失って倒れる
・全身のけいれん
・犬かきのように手足を動かす
・首や脚のこわばり
・つまずきや転倒
・尿や便の漏れ
・発声
<焦点発作の症状>
・よだれが大量に出る
・手足や顔面の一部がけいれんする
・口をくちゃくちゃさせる(チューインガム発作)
・短時間だけ攻撃的になる
・チック症状(体がびくっとなるなど自分の意志とは関係なく体の一部が早く動く症状)
てんかん発作後
てんかん発作が起きてから元の正常な状態に戻るまでに、以下のような症状が見られます。
・疲れてぐったりする
・急にご飯を食べる
・水をたくさん飲む
・息切れする
・動き回る
・方向感覚がなくなったように徘徊する
・気持ちが混乱して不安定になる
てんかん発作は苦しくないの?
上記で、てんかん発作の症状について見てきましたが、犬のてんかん発作を見たことがある人はその激しさに驚くかもしれません。そのため「てんかん発作が起きているときは苦しくないのだろうか」と心配に思う飼い主さんもいるでしょう。
結論からいうと、てんかん発作中は苦しくないと言われています。なぜなら、てんかん発作は痛みを伴うものではないし、発作中は意識を失っていることが多いからです。
てんかん発作を起こしている老犬は、動きが激しく辛そうに見えるかもしれませんが、そうではないと知っていればより落ち着いて対処できますよね?
そのうえで、てんかん発作が起きたときに飼い主がするべきことについて、次の章で解説していきます。
てんかん発作が起きたときに飼い主が取るべき対応
老犬がてんかんを発症した場合は、意識がないことがほとんどです。つまり、発作中は自分で自分を守れない状況にあります。飼い主さんが補助することで、愛犬がケガをするのを防ぎましょう。ただし、口元に手を持っていくと噛まれてしまう場合があるので注意してください。
この章では、てんかん発作中と発作後に飼い主さんにしてほしいことについてまとめました。
発作中
・まずは飼い主さんが落ち着く
・サークルやクッションなどで愛犬をガードすることで体を守る
・愛犬の近くで優しく声をかけながら見守る
・発作の時間を測る
・携帯電話などで動画を撮る
・長時間発作が続く場合は体を冷やす
発作後
・ゆっくり休憩させる
・ご飯や水を与える
・症状を細かく記録する
・症状が落ち着いてから動物病院を受診する(発作が初めてでない場合は、獣医に連絡して指示を受ける)
てんかん発作の記録に関しては具体的に、以下のことをメモしておけば獣医師の診断に役に立ちます。
・発作の前兆はあったか
・発作が発生した時間
・発作の長さ
・何が起こったか
・発作の発生頻度
・最近受けた外傷やケガ
・最近何か毒物に触れたかどうか
こんな時はすぐに病院へ
多くのてんかん発作は、数秒~数分でおさまります。そのため、愛犬の発作が落ち着いてから動物病院を受診するようにします。
ただし、以下の場合は危険な状態なのですぐに動物病院に連れて行くようにしてください。
・てんかん発作が5分以上続く
・発作が1度終わっても意識が戻らないうちに2度目の発作が起きる
・24時間以内に2回以上のてんかん発作が起きた
治療が遅れてしまえば、後遺症が残ることもあります。さらには、そのまま死に至る場合もあるので注意して観察しましょう。
犬のてんかんの治療
犬では、特発性てんかんが多いということを説明しました。これを言い換えると、てんかん発作の原因は、分からない場合が多いということです。原因が分からなければ、原因に対する治療をすることができません。したがって、犬のてんかんの治療は、発作の頻度や程度を低下させることを目的とした抗てんかん薬を使うことが一般的です。
その一方で、老犬で多い症候性てんかんや非てんかんは、原因となる病気や体の異常に対して治療を行います。ただし、年齢や疾患箇所によって治療が難しい場合は、緩和ケアをすすめられることがあるでしょう。
抗てんかん薬
てんかん発作の頻度を減らしたり、症状を弱くしたりすることが目的の抗てんかん薬。犬のてんかんの治療に使用される抗てんかん薬は、以下のようにいくつか種類があり、その中から症状に合わせた薬が処方されます。
・フェノバルビタール
・臭化カリウム
・ジアゼパム
・レベチラセタム
抗てんかん薬による治療でもっとも重要なことは、血液中の薬の濃度を一定にすること。そのため、決められた量と時間を守って服用させなければなりません。
とはいえ「長期的に薬を飲ませるのは副作用が心配」という飼い主さんも多いことでしょう。確かに、多飲多尿、軟便、食欲低下といった副作用が見られる場合もあります。
だからといって勝手に薬の使用を止めてしまっては、今まで薬が抑えていた興奮が一気に爆発して、より激しい発作を引き起こすことにもなりかねません。このように副作用が見られたときは、必ず獣医師に相談してください。
また、抗てんかん薬の効果や副作用は犬によってさまざまなので、定期的に動物病院で確認する必要があります。「発作がしばらく起きていないから薬を止めてもよいのでは?」と思ったら、その定期健診のときにでも獣医師に相談するとよいでしょう。
最近注目されているカンナビジオール(CBD)
抗てんかん薬によるてんかん発作の改善が見られない犬が多いことから、抗てんかん薬に頼らない方法が研究されてきた中、最近注目されているのがカンナビジオール(CBD)です。
カンナビジオール(CBD)とは大麻から抽出される成分の一種で、麻薬のような中毒症状を引き起こす成分は含まれていないので、合法的に使うことができます。
それではここから、どうしてCBDがてんかん発作の治療として注目されているのか解説していきましょう。まず私たち人間や犬の体の中には『エンド・カンナビノイド・システム』といって、体の恒常性を維持するシステムがあります。このシステムは、カンナビノイドという神経伝達物質を使っているのですが、CBDに含まれる成分がカンナビノイドと似ているのです。
CBDが、エンド・カンナビノイド・システムに影響を与える正確な方法はまだ分かっていません。しかし、CBDに含まれる成分が犬の脳内でカンナビノイドと同じような働きをすることで、神経系の機能を維持し、てんかん発作が抑えられると考えられています。
実際にコロラド州立大学の研究によると、CBDを投与された犬の89%に発作の減少が見られました。主な副作用としては鎮静作用がありますが、てんかん発作を鎮めることを考えると、この副作用は悪いものではないでしょう。
この記事を読んでCBDを使ってみたいと思ったなら、かかりつけの獣医師に相談した上で、添加物が含まれていない安全なCBD製品を選ぶようにしてください。
参照:The Benefits Of CBD Oil For Dogs
https://www.dogsnaturallymagazine.com/cbd-oil-for-dogs/
食事療法
犬のてんかんの治療法には、ケトン食療法もあります。これは炭水化物の摂取量を極力減らし、脂肪中心の食事を摂取することで、体内に抗てんかん作用を持つケトン体という物質を作り出す食事療法です。
21頭のてんかん治療中の犬を対象にケトジェニック中鎖TAG食を摂取した場合とそうでない場合を比較した実際の研究では、ケトジェニック中鎖TAG食を摂取した場合、6頭では変化が見られませんでしたが、3頭が発作の消失を達成、7頭が発作頻度を50%以上減少、5頭が発作を50%未満減少させるという結果になりました。
ちなみに、ケトン体の元となる中鎖脂肪酸をはじめ、脳の健康に良いとされるEPAやDHA、抗酸化成分を含んだ療法食(フード)が、日本でも発売されています。
抗てんかん薬の使用に不安を持つ飼い主さんは、食事療法を提案してくれる動物病院を探すのも1つの手です。
参照:A randomised trial of a medium-chain TAG diet as treatment for dogs with idiopathic epilepsy
飼い主がお家でできるケア
犬におけるてんかんは、原因が分からないことが多く予防するのは困難です。さらに、症候性てんかんや非てんかんのように原因が分かっている場合であっても、その病気や異常を予防するのは大変ですよね?
しかし、てんかんのきっかけとなるものを知っておけば、はじめてのてんかんを防ぐことはできないにしても再発のリスクを低下させることはできるでしょう。特に老犬は、次のようなものに影響されやすいと言われています
・気温
・気圧
・ストレス
・睡眠不足
上記のもの以外にも、愛犬特有のてんかん発作のきっかけとなるものがあれば、できるかぎりその状況を避けるようにしましょう。
まとめ:老犬がてんかんを発症したら病気や体の異常をチェック!
この記事では、てんかんの原因や症状を説明した上で、てんかんを発症した愛犬に対して飼い主がするべきこと、さまざまな治療や家でのケアについて解説しました。
犬のてんかんの原因は4つありますが、特に老犬は病気や体の異常によって発症する場合が多いことが分かったと思います。とはいえ、てんかんを予防するのは難しいため、発症したときの飼い主さんの冷静で適切な行動が重要です。
そうすれば、よりよい治療が受けられ、死亡リスクも低下させることができます。てんかんを発症した老犬の飼い主さんは、落ち着く、愛犬の安全の確保、動画撮影、症状の細かい記録、動物病院の受診という流れがスムーズにできるよう、日ごろから意識しておきましょう。
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