シニアになった愛犬を寝たきりにさせたい飼い主さんはいないですよね?
そうはいっても
「寝たきりにさせないためにはどうすれば良いの?」
と思っている飼い主さんも多いことでしょう。
一般的に、老犬は後ろ足から衰えると言われています。逆を言えば、後ろ足をできるだけ衰えさせなければ寝たきりになりにくいということ。その具体的な方法として紹介したいのがリハビリです。
この記事では、老犬のリハビリの種類と方法を紹介した上で、歩行機能の衰えのレベルに応じた自宅でできる簡単なリハビリ方法についても詳しく解説していきます。この記事を参考にして、老犬がいくつになっても自力で歩けるように、特に後ろ足のケアをしていきましょう。
目次
リハビリとは
リハビリとはリハビリテーションの略で、英語で書くとRehabilitationになります。これは、「再び」を意味する re とラテン語で「適する」を意味する habilis が組み合わさったものです。直訳すると「再び適する状態になる」ことを示し、これを老犬のリハビリに当てはめると、「傷ついた、または衰えつつある老犬の機能を再び回復させる」ということになるでしょう。
ここでは、リハビリによる機能の回復によって生活の質(QOL)の向上が期待できる「傷ついた状態」と「衰えつつある状態」についてそれぞれ解説します。
病気やケガ、術後のケア
リハビリと聞いて最初に思いつくのは、病気やケガ、手術をした後に行うケアであることが多いのではないでしょうか?このリハビリは、回復を早めることと痛みや負担を軽減する事を目的とします。
対象となるのは次のような場合です。
・椎間板ヘルニア
・脊髄損傷などの疾患
・靱帯断裂
・骨折
・整形外科や神経外科の手術をした後
など
例えば老犬が右前足を骨折した場合、残りの3本の足で問題なく歩けるため、手術後も3本足で生活するようになる事があります。しかしそれでは右前足の筋肉が落ち、体のバランスも悪くなるので治療の効果が薄れてしまうでしょう。
そうならないために、本来の右前足の機能を早く回復させ、残りの3本足の負担を減らすという目的で、術後にできるだけ早くリハビリを行うのです。
老化による筋肉の衰えに対するケア
上記の説明で、リハビリは老犬が傷ついた(機能を失ったまたは機能が低下した)後の回復の手段として有効であることが分かったと思います。一方、老化に伴う筋肉の衰えなど機能が低下する前の予防として行うのも効果的なのです。
このリハビリには老化のスピードを遅らせ、今ある機能を最大限使える状態に維持・回復させるメリットがあります。具体的には以下のようなものです。
・関節炎の予防
・寝たきり予防
・おもらし予防
・認知症予防
・老犬のストレス軽減
など
リハビリの種類と方法
上記の2つで行われるリハビリの方法は、基本的に変わりません。しかしこの章では、一般的にあまり認知されていないと考えられる後者の側面からリハビリの種類と方法を解説していきます。
マッサージ療法
マッサージは、リハビリ計画においてウォーミングアップとクールダウンの役割を果たし、ほとんどの計画に含まれるものです。
そのメリットをいくつか示します。
・血行促進
・ストレス解消
・腫れやむくみをほぐす
・筋肉の緊張をやわらげる
・愛犬の異変にすぐに気づく
・愛犬との絆を強くする
マッサージ療法には、手にやや力を入れて撫でる軽擦法や後足の先を握って左右に揺らす振動法などいくつかの方法があります。適切な部位に適切なやり方で行うのも大事なのですが、飼い主さんが行う場合は次のことも注意してマッサージを行うようにしましょう。
・飼い主の気分がマイナスなときは、犬にも伝染してしまうのでマッサージをしない
・ケガをさせないように爪を切る
・犬の毛にからまらないように、指輪や時計をはずす
・嫌がる場合は、無理にやらない
・すでに病気やケガがあるときや、手術後は獣医師に相談してから行うようにする
・強くせず、優しく撫でるように行う
リハビリ計画の最初と最後に行われるリハビリ。気持ちよく始めて気持ち良く終われるように、飼い主さんも工夫をしていきましょう。
徒手療法
徒手療法とは、機械を使わずに手を使う治療法のことです。具体的には以下の4つがあります。
・他動的関節可動域訓練(PROM)
・モビライゼーション
・マニピュレーション
・ストレッチ
関節可動域運動の目的は、関節を動かさないことなどが原因で可動域が制限されるのを予防したり、制限された場合には可動域を広げたりするというものです。
物理療法
物理療法とは、光線、電気、熱、超音波などの物理的エネルギーを利用して、治療する方法で、具体的には以下の6つがあります。
・低出力レーザー療法(LLLT)
・磁場療法
・電気刺激療法
・温熱療法
・寒冷療法
・超音波療法
物理療法は、機械を使ったケアなので動物病院で行われるのが一般的です。
運動療法(自発的)
運動療法(自発的)は、人の補助なしで犬が自発的に運動する方法です。以下の方法は、「愛犬の足腰が弱ってきたな」と感じたときから始めると予防の効果が高まるでしょう。
引き紐歩行は、通常の散歩のようにリードをつけて無理なくゆっくりとしたスピードで行います。
水治療法はハイドロセラピーとも呼ばれ、水の中で行うリハビリです。そのため、次のようなメリットがあります。
・ 温かい水の中で行うことで筋肉がほぐれる
・水の抵抗力を利用することで筋肉が鍛えられる
・水の浮力があるので関節などへの負担が軽減され、陸で運動できない犬もリハビリができる
階段の昇降は、階段を上るときは後ろ足に、階段を降りるときは前足に負担がかかるので全身を鍛えることができます。
座り立ち運動は、「お座り」の状態と普通に4本足で立っている状態を繰り返す運動です。この運動は股関節や膝関節の強化、可動域の維持・改善につながります。
「お座り」の時に注意するのは横座りをさせないこと。また、立ち上がることが難しい場合はクッションや人の膝の上に座らせるようにしましょう。
カバレッティとは、馬の障害練習などに使う横木を並べたもののことです。これを応用したのがカバレッティレール。つまり、ポールなどの障害物をまたぐ運動のことです。
家で行う場合は、タオルを細長く丸めたものや突っ張り棒でハードルのようにしたものも利用できます。しかし、またぐものが高すぎると飛び越えてしまい、腰に負担がかかってしまうので注意が必要です。愛犬の体の大きさに合わせて高さを調節しましょう。
ダンシングは、体を支えて後ろ足だけで前後左右に歩かせる運動です。これは、後ろ足の筋力アップやバランス感覚の強化につながります。
トレッドミル(陸上・水中)は、人でいうランニングマシーンのようなもの。床が動くため、犬が自力で歩くことを促します。また水中トレッドミルでは、水治療法と同じ効果が期待されます。
運動療法(補助)
運動療法(補助)は、人が補助しながら犬自身が運動する方法です。以下に示すものは、自分で立ち上がることができない、または完全に足が動かない犬でも人が補助することでできるリハビリになります。
補助起立は、両手で骨盤やお腹などを支えることで立つ姿勢を維持させるものです。この時通常の立っている状態になるように、しっかりと肉球を地面につけましょう。支えるのが難しい場合は、タオル、ハーネス、クッションなどを使います。
補助歩行は、介護用ハーネスなどを使って犬の“歩きたい”意欲を満たすものです。このメリットとしては以下のものがあります。
・筋力の低下予防
・内臓機能の低下予防
・認知症予防
自分で立ち上がれない老犬でも、補助されることで歩くことができれば、ストレス解消にもつながるでしょう。このとき注意すべきなのは、足を引きずっていないかどうかです。足の甲が地面につくナックリングのような症状が見られる場合は、靴下などをはかせてケガを予防しましょう。
バランスボード運動は、バランスボードの上に立つリハビリで、バランス感覚の改善に有効です。
スイスボール運動は人と同じバランスボールを利用したものですが、犬の状態や大きさに合わせられる様々な形と大きさがあります。転がらないようにしたうえで、4本すべての足をのせることもありますが、基本は前足側か後ろ足側の片側ずつ乗せるようにします。
カートセラピーは、犬用の車いすを利用したリハビリです。これは補助歩行と比べて自分の行きたいところへ自力で行けるのと、飼い主の補助も必要ないので、お互いのストレスが軽減されるでしょう。しかし、例えばビビりな性格の犬は車いすを装着するのが難しいかもしれません。愛犬の性格も考えながらリハビリの方法を決定しましょう。
運動療法(他動的)
運動療法(他動的)は、人が犬の体の一部を動かす受動的な方法です。寝たきりの老犬でもリハビリを続けると、また歩けるようになるかもしれません。とはいえ、無理やり度を越してやってしまうとケガをさせてしまうかもしれないので注意が必要です。
これには徒手療法の他に次のようなものがあります。
引っ込め反射の誘発は、指の間の皮膚を摘まむことで、伸ばした足を引っ込める反射を起こさせるものです。これは、筋肉と神経の連動性を高める効果があります。
屈伸運動とは、足を屈伸することで、関節可動域の改善や筋力の強化を行うものです。これは、起きた状態でも寝た状態でも行うことができますが、痛みがある場合はリハビリを中止しましょう。
自転車漕ぎ運動は、犬の足先を持ち、自転車を漕ぐように円を描くことですべての関節を動かす運動です。これは可動域を広げたり、筋力を強化したりするだけでなく、再び歩けるようになるためにも重要な運動になります。
老犬の歩行機能の衰え方
上記でリハビリの種類とその方法について見てきましたが、特に運動療法の説明で歩行機能の衰えのレベルに応じて適したリハビリがあることが分かったかと思います。そこでこの章では、老犬の歩行機能がどのように衰えるのかについて見ていきましょう。
老犬の歩行機能は、簡単に示すと以下の5つの段階を経て衰えていきます。
① 歩くのが遅くなる、歩行中にふらつくなど若い時とは違う様子が見られる
② 座った状態から立ち上がるのが遅くなる
③ 自力で歩くことはできるが、1度座ると立てなくなる
④ 後ろ足の機能が衰え、補助なしでは歩けなくなる
⑤ 補助なしで立つことも歩くこともできなくなり、寝たきりになる
一般的に、老犬は後ろ足から衰えると言われています。それは、前足には体重の7割がかかっているのに対して、後ろ足には3割しかかかっていないからです。また、前足はおもちゃを引き寄せるときやお手をするときに意識的に動かしますが、後ろ足は前足が行く方についてくれば歩けるので意識が薄れやすいと考えられます。
私たちも立ち上がるときには、足の筋肉をよく使いますよね?これは犬も同じで、病気やケガが無いのに立ち上がりが遅くなるというのは、後ろ足の筋肉が衰え始めたサインなのです。
家でできる段階別の簡単なリハビリ方法
近年、人間と同様に動物においてもリハビリの重要性が認識され始め、リハビリを行う動物病院も増えてきました。そこでは、専門的な知識を持ったスタッフがリハビリをしてくれます。
だからといって、資格を持たない飼い主さん自身が行ってはいけないということではありません。ここでは、今日からできる簡単なリハビリ方法を紹介するのでぜひお家で実践してみてください。
歩く速度が遅くなる:マッサージ
老犬の歩行に関して、若い時と比べて違和感を感じたら、まずはマッサージからしてみましょう。マッサージと聞くと「決まったやり方があるのでは?」と考える飼い主さんもいるかもしれません。
体の中心から遠くへなどと言われることが多いですが、愛犬は飼い主さんが撫でてくれるだけでうれしい気持ちになると思います。ぜひ先述したことに注意しつつ、愛犬の毛並みに沿って優しくマッサージしてあげてください。
立てば歩ける:補助歩行
自力で立てなくても自力で歩ける場合は、老犬のストレスをためないためにも歩かせてあげたいですよね?そんな時は、介護用ハーネスを利用して補助してあげましょう。それが無い場合は、柔らかい生地のバスタオルに後ろ足を通す穴をあけることで手作りすることもできます。このとき注意するのは、補助しすぎないという事。なるべく自力で歩かせるように心がけましょう。
寝たきり:ストレッチ
犬が寝たきりになると、筋肉や関節が固まります。特に寝起きが1番固くなりがちなので、朝起きて「おはよう」のコミュニケーションをとるついでにストレッチをするのがおすすめです。
例えば後ろ足のストレッチは、足首と膝の2か所を両手で支えながら優しく曲げ伸ばします。愛犬の無理のない程度で行うようにしてください。
自宅でのリハビリで大切なのは楽しむこと
これまで犬のリハビリについて解説してきましたが、1番大事なのは飼い主も愛犬も楽しんでリハビリを行うことです。犬は、「筋肉の衰えを予防するためにリハビリをしないといけない」とは思いません。そのため、基本的にはリハビリへのモチベーションは低いと考えてください。
一方で、飼い主さんのモチベーションが高すぎるのも良くありません。「〇回やるように先生に言われたから」や「寝たきりにさせないぞ」など、リハビリに義務感が出てきてしまうと、どうしても楽しくリハビリを続けることができないでしょう。
1回で終わるリハビリはなく、毎日やり続けたいものです。そんなリハビリの効果を最大限に高めるためには、愛犬も飼い主さんも楽しくリハビリをしたいものですね。
まとめ:老犬は後ろ足のリハビリで健康寿命をのばす!
この記事を読んで、老犬が一般的に後ろ足から衰えると言われている理由とその衰えはリハビリによって予防できるということが分かったかと思います。
簡単にできるリハビリ方法についても紹介しましたが、お近くにリハビリの相談をしてくれる動物病院があるのであれば、愛犬に1番必要なリハビリを知るためにも獣医師に相談するのがおすすめです。老犬の後ろ足のケアを通じて絆も深めつつ、寝たきりの予防をしていきましょう。
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